人生が変わる、幸せになる、お金持ちになる。書店に並ぶ自己啓発本のタイトルが、どれも同じように見えてつまらないと思ったことはありませんか?
自分を成長させたいための読書はしたいけれど、ハウツー本は好きじゃない。そんなあなたにぜひおすすめしたいのは、中学受験生が入試で解いている本です。
参考 中学受験の読書におすすめ!入試によく出題される作品をまとめました。
12歳の子どもが読むなら児童文学や教科書に出てくるような本でしょう?と思ったら思考が固まっている証拠。
小学生だって読んでいる。新鮮な視点から自分と他者を見つめ、この先の人生観、世界観が変わるような3冊の本をご紹介します。
『15歳の寺子屋 ゴリラは語る 』
自分の姿をじっくり見るには、鏡が必要です。同じように、人間がどういう生き物なのかを知りたいときに、よき鏡となってくれるのが、ぼくたちと祖先を同じくしているゴリラなのです。
恋と友情の間で悩むのは、なぜ?家族の役割って、何?戦争をするのは、なぜ?自然が必要なのは、なぜ?そんな難しい問いに、ゴリラはヒントをくれます。ゴリラたちの姿を通して、世界の見え方が変わる体験をしてみませんか?
ゴリラ流あいさつとゴリラ語を学び、ゴリラ社会のルールを身につけた著者で人類学・霊長類学者の山極寿一さん。ゴリラの研究のために、アフリカ大陸でゴリラの群れにホームステイをした、もうそのことだけで想定外でひっくり返りそうになりました。
あなたの家にゴリラがホームステイをしに来たらどうしますか?そんなのムリムリ、漫画や小説の世界じゃないんだから。
人間は自分の土地や家に野生動物が入ってくることを、基本的に許さない生き物。でも、ゴリラは許してくれるそうです。人間は他者をもっと受け入れる懐の深さがあってもいいという山極さんの言葉に、シュンとしました。
霊長類学という学問では、ヒトという動物はゴリラやチンパンジーと同じ類人猿。根っこの部分は同じものを持っているんですよね。
自分がヒトという動物であると意識したら、どんなことを思うでしょうか?おかしな動物だなぁ、複雑で面倒な動物だなぁと苦笑いして客観的に見えるかもしれません。
ゴリラという他の動物の世界を知って、人間が一番偉いと思っていなかったか。地球も自然も人間のものだという傲慢さが自分の中にあったのではないかと感じました。
動物園に行ったら、この本に載っていたゴリラ語をゴリラに試してみようかな。
『特別授業 死について話そう』
誰も死んだことはないけれど、正面切って、考えてみました。
社会を知り、自分を知り、この世の中で生きて行くためにーー
多感な思春期の子どもに向けた『14歳の世渡り術シリーズ』の中の1冊。職種や立場の違う18名の著者が死をテーマにしたエッセイがまとまめられています。
国語、社会、冒険、介護、生物…18人が紙上で特別授業するような展開で、入試問題で見たのは映画監督・園子温(そのしおん)さんの芸術の授業「死を刻む」でした。
生と死について書かれたこの本を、14歳の私が読んでもおそらくピンとこなかったでしょう。
体力も気力も衰えてきた46歳の今だからこそ、「死」という誰も逃げることができない問題を、静かにあらゆる方向から考える時間をもらえたのだと思うのです。
何度も読み返したのは、ムツゴロウさんこと畑正憲さんの課外授業「蜘蛛の腹の中に」。暗唱したい記憶したい表現がたくさん出てくるんですよ。ムツゴロウさんのように、自然の中で触れて感じるという体験をするって大事だと思いました。
衝撃的だったのは、自然写真家・伊沢正名さんの生物の授業「ウンコに学ぶ 生き方・死に方」。なんと21世紀に入ってから、まだ1回しかトイレでウンコをしていないそうです!野糞から生態系の命の循環をまじめに考えてしまいました。
元気をもらったのは、日本テレビスッキリのコメンテーターとして出演されている湯山玲子さんのゆとりの授業「生きながら生きる!」
現代はラクでトクな快感の罠がいたるところに存在している。思考停止して受け身でいるだけで約束された面白さが手に入る。そんな「生きながら死んでいる」ような生き方がもったいない!という言葉に、ピシャッと気持ちが引き締まりました。
無理をせず自然体に生きよう。無理なことを我慢してやらなくていい。一見すると正論に思えます。
でも無理することを嫌うってことは、自分にとって不安なことに手を出さなくなることなんだ。その結果何も新しい体験ができなくなるという精神の引きこもり状態に陥るんだとありました。
本当にそうですよね。好きなことだけやればいい。やりたくないことはやらなくていいという発想は、やってみたら案外面白かったという感動も快感も、成長もない人生を選んでるってことです。
少々無理な行動を自ら選び、無理をしてブログを書いている私は、新しいことを達成した快感と成長が欲しいのだと自覚しました。どしどしと図太くご機嫌な人生を終え、死を迎えることが理想かも。
あなたなら14歳に、死を生をどんな言葉で語りますか?
『わかりあえないことから コミュニケーション能力とは何か』
この本の著者は劇作家で演出家の平田オリザさん。大阪大学で大学院生を対象に演劇を通じてのコミュニケーション教育をされているそうです。
この本にエピソードとして出てくる富良野市立布部小学校。全校生徒11名のうち5名が外国籍の生徒だったというこの小学校で、平田さんが行っていた授業がとてもワクワクして面白い。
転校生が来るという簡単な台本から、1班6人で劇を作っていくんです。表現教育には子どもたちから表現が出てくるのを「待つ勇気」が必要だという平田さんは、気持ちいいほど教えることをしません。
普段話さない、寝てるという子には寝てる役を、いつも遅刻ギリギリの子には遅刻してくる生徒の役をやらせる。「話さない」ことも「いない」ことも立派な表現なんだという新しい概念にニヤリと笑みを浮かべて読みました。
書けない書けないというこのブログも、存在するだけでブログとして立派な表現をしているかもと思ったりして。
子どもが「先生、トイレ」と単語でしか喋らなくなってもしかたないくらい、少子化で親が先回りして話してしまうんですよね。待つ勇気が必要なのは私たち親です。
コミュニケーション能力を求める温度はどんどん上がっているように感じます。スピーチだ、ディベートだと学校側はさまざまな取り組みを行っています。それ以前に子ども側に伝えたい気持ちがなければコミュニケーションは定着しないことへの対策が必要かもしれません。
平田さんがモデル授業を続けていた富良野市では、劇の授業から広がり富良野高校に道内初の演劇コースが新設されたそうです。演劇のプロを育てる目的ではなく、将来の富良野を支える豊かな発想と表現力を持った人材を育成するために。
演じることって未来につながるんですね。自分と価値観が違う他者と接触する体験教育、伝わらないという経験からくる伝えたいという気持ち。演劇的な授業で得られる素晴らしさは、相手と自分の気持ちを想像することなのかもしれません。
自分を演じることに、マイナスのイメージを持たなくていいんですよ。本当の自分探しなんかいいから、男でもおカマでも、女子高生でも女王様でも演じてみればいいんだわ。
中学受験でこのような本が出題されるのは、未来を生きる12歳をとりまく環境の変化と、複雑になる人間の気持ちの変化を、多方向から考える人になって欲しいからなのでしょうか。
自己啓発本はつい流し読みになってしまい、わかったつもりになりがちです。ここでおすすめした3冊は、読むことで記憶に残る新鮮な学びがある本で、あなたの成長したいという欲を満たしてくれるはず。
ゴリラ・死・演じる。それぞれの視点から見る世界観をぜひ感じてみてください。